最高裁判所第一小法廷 平成2年(オ)27号 判決 1990年10月18日
上告人
鈴木慶昭
上告人
鈴木正人
右両名訴訟代理人弁護士
大谷昌彦
被上告人
東京都
右代表者知事
鈴木俊一
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人大谷昌彦の上告理由一について
公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して低兼な家賃で住宅を賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって(一条)、そのために、公営住宅の入居者を一定の条件を具備するものに限定し(一七条)、政令の定める選考基準に従い、条例で定めるところにより、公正な方法で選考して、入居者を決定しなければならないものとした上(一八条)、さらに入居者の収入が政令で定める基準を超えることになった場合には、その入居年数に応じて、入居者については、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならない旨(二一条の二第一項)、事業主体の長については、当該公営住宅の明渡しを請求することができる旨(二一条の三第一項)を規定しているのである。
以上のような公営住宅の規定の趣旨にかんがみれば、入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はないというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、右判断と異なる解釈をとるものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同二について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官角田禮次郎 裁判官大内恒夫 裁判官四ッ谷巖 裁判官大堀誠一 裁判官橋元四郎平)
上告代理人大谷昌彦の上告理由
原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈・適用の誤りがあり、かつ、事実の認定に関する経験則違反、採証法則違反がある。
一 法令の解釈・適用の誤り
1 都営住宅の使用権の相続による当然承継について、原判決は、第一審判決の理由説示を引用している。
そして、第一審判決は、相続による承継についても、公営住宅法及び都条例は当然承継を認めておらず、承継基準に従って知事の承継許可があったときにのみその承継を認めているものと解するのが相当であると判示している。
2 しかし、これは、公営住宅の使用関係が基本的には私人間の家屋賃貸借関係と異なることなく(最高裁昭和五九年一二月一三日判決、判例時報一一四一号五八頁)、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法に優先して適用されるが、法および条例に特別の定めがない限り原則として一般法である民法及び借家法の適用がある(前掲判例時報六一頁)とする判例に反する誤った判断である。
すなわち、原判決の引用する一審判決は、相続による承継について特別法たる都条例はなんら規定していないようであるとしながら、都条例の他の条文の規定等から前記のように解すべきであるとしたものである。しかし、ある法律関係につき特別法と一般法がある場合に、特別法に特別の定めがないときは、前掲の最高裁判決が判示するとおり一般法が適用されるのであるから、特別法の解釈によって特別な定めがあるかのように解すべきではない。
特別法、一般法のいずれにも定めがないときにのみ、特別な定めの解釈が許されるに過ぎない。
3 都条例一四条の二の規定は、条文の位置、規定の文言等から明らかなように、使用権の譲渡・転貸を禁止した同条例一四条に対する例外規定として譲渡・転貸を許すことができる場合を規定したものであって、相続による当然承継についての特別の定めではない。そして、右一四条の二の条文以外に承継について定める規定は存しない。
従って、相続による当然承継については、一般法である民法の相続に関する規定が適用されるから、賃借人鈴木義太郎の死亡により、上告人鈴木慶昭が、義太郎の長男栄を代襲して本件建物使用権を共同相続したものと言わざるを得ない。
4 原判決の引用する一審判決は、相続による当然承継を認めると、入居資格のない者でも使用権を承継することになって、公営住宅法及び都条例の法意にそわない結果になるという。
しかし、このような場合には、そのことを理由に明渡を求めればよいのであって、特別法に特別な定めがないにもかかわらず、一般法の適用を排除すべきではない。
二 <省略>